[星野佳路さん×上村愛子さん×ハピスノ編集長]雪山は家族をひとつにしてくれる絶好のフィールド vol.1

今回は、このおふたりとハピスノ編集長の対談。雪山を通して、子供たちに伝えたいことやスキー業界の未来について、ざっくばらんに語り合いました。
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コロナ禍が子供から奪ったスキー体験の機会
[ハピスノ編集長 竹川紀人(以下、竹川)]スキーやスノーボードは子供が小学生になったら、と考える親御さんはとても多いと感じています。その一方で、小学5~6年生になると、塾や習い事で両親よりも休みが取れない子供も多い。
そう、じつはスキー&スノーボードを楽しむ年齢ってとても短くなっていて、大半の子供にとっては、あくまでボリュームという意味でいうと、たった4年間しかないんです。しかも、いまの小学生はそのうちの2~3年を、コロナ禍で失ってしまった。
ハピスノではこれまでも、スキー場は幼児でも楽しめる場ということを訴求したくて“雪の遊園地”というキーワードで、幼稚園・保育園にフリーペーパーを配布するなど、スキー場の魅力拡散に努めてきました。
ですが、今後はスキー&スノーボードの魅力を、コロナ禍でチャンスを奪われた小学生以上の子供やそのご両親に対しても、積極的に発信していく必要が強まったと感じているところです。
そんななか、今回の対談では、子供や家族にとってのスキー&スノーボードの魅力について、おふたりのお考えをお話いただければと考えています。[竹川]前段が長くなってしまいましたが…。まずは愛子さん、ご自身が子供の頃にスキーを始めたきっかけについて教えてください。
[上村愛子さん(以下、上村)]もともと生まれは兵庫県でしたが、わたしが3歳の頃に両親が白樺湖(長野県)近くのエコーバレースキー場の麓でペンションを開くことになりました。小学1年生のとき白馬(長野県)に越して、そこでもペンション業を営んでいましたが、冬になると目の前が一面の雪。
物心ついたときには、短いスキー板を履いて遊んでました。まわりにペンションのスタッフやゲストのお兄さん・お姉さんがたくさんいて、自然とゲレンデに連れていってもらうようになり、気づいたらスキーをしている人生でした。
[星野佳路さん(以下、星野)]競技スキーを始めたのはいつ頃ですか?
[上村]小学1年生のときにアルペン競技を始めました。
[星野]スキー&スノーボードって、どこかでリタイヤする子が多いですよね。とくに、小学校の高学年から中学生にかけてリタイヤする子が多い。上村さんは、なにが続けるモチベーションになっていたんですか? やめたいと思ったことはなかったんですか?
[上村]小学校の頃のスキー練習って、日中は学校なので、毎日ナイターでした。最悪なんです、寒くて(笑)足は冷たいし、手も凍る。トイレにもなかなか行けないし。わたしのまわりでは、それがやめたいと思ってしまう理由になる子も多かったみたいです。
どうしてわたしは続けられたかというと、たぶん、自分にとっては学校のあとにまっすぐ帰って宿題をするよりも、スキースクールに寄って、スキーを履いて遊ぶほうが楽しいという感覚があったからだと思います。[星野]じつは1回ちょっとやめた、みたいなこともなかったんですか?
[上村]ないですね。小学校の6年間、アルペン競技をやって、中学2年生にはモーグルに転向するんですが、その合間の中学1年生のときに一度だけ、競技からは離れました。
でも、その間も「自分には目標があったほうがいい」と気づいて、検定を受けたりしていました。検定に合格したり、タイムが上がったり。一生懸命やったら結果が付いてくるという喜びがモチベーションになっていたのかもしれません。
[星野]なるほど…。どうやって子供に始めてもらうかも大切だけど、どうしたらやめないで続けてもらえるかも重要。そんなふうに考えているんですけど、やめようと思ったことがない人にはなかなか分からないことかもしれません(笑)冷たくて辛いのに通っちゃうというモチベーションこそが“素質”なのかもしれませんね。 -
子供がスキーをやめない仕掛けづくり
[竹川]どうしたらリタイヤしないか? わたしの経験則だと、リタイヤしない子たちの傾向はスキーでもスノーボードでも、忙しくなる小学校の高学年までにある程度、滑れるようになっているんです。
つまり、スキー&スノーボードの魅力を実感できている子たちはやめない。と考えると、スクールがとても重要になってくるんですよね。パパ・ママがしっかり教えられればいいですけど、塾と一緒で、スキーもやっぱりスクールにまかせたほうがいい。親は感情的になりがちだから(笑)
でも、そのスクールも慢性的な人材不足。そして、もともと数の少ないインストラクターのなかに、子供を教えることに長けた人材も少ないのが現状。
そんななかで、星野リゾートの「雪ッズ70」には注目しているんです。
[星野]ありがとうございます!「雪ッズ70」とは星野リゾートが運営するリゾナーレ八ヶ岳とアルツ磐梯、そして、トマムで展開しているキッズスキースクールです。
6つのレベルと、さらに細分化された70個のステップが特徴ですが、じつはこのスクール、水泳教室からヒントを得ているんです。
水泳教室ではレベルアップするたびにワッペンとか賞品的なものがもらえますよね。それが子供たちのモチベーションになっている。雪ッズ70でも同様に「雪ッズ70 ピンバッチ」を差し上げています。
[上村]モチベーションを高める施策、素敵ですね! 70ステップというのもすごいと思います。
[星野]例えば、レベルが6つしかないと上達を実感しづらいですけど、70ステップあれば、受講するたびにステップアップできるだろうし、上達が一目瞭然。それがモチベーションにつながるんじゃないかって考えたんです。
また、展開している3施設ではデータを共有化してカルテを作り、どこでも引き継げるようにしました。リゾナーレ八ヶ岳でもアルツ磐梯でも、トマムでも、無駄なく次のステップ習得のためにレッスンを始められるというのは大きなメリットだと考えています。
少しずつ自信をつけてもらい、毎年モチベーションを維持して、レベル6の受講が唯一できるトマムで、最後はチョッカリ大魔神(トマムの人気キャラクター)と一緒に滑ってくれたらうれしいですね。[竹川]チョッカリ大魔神の名前が出てきましたが、トマムのコンテンツで、わたしのいちばんのお気に入りは「アドベンチャーマウンテン」なんです。
[星野]ありがとうございます。
[竹川]愛子さん、アドベンチャーマウンテンって、ゲレンデに様々なアイテムがあって、それがレベル別に分かれていて、ひとつひとつ、アイテムをクリアするとスタンプが押せるんです。
雪ッズ70同様、それがモチベーションにつながるみたいで、次はあのアイテムをクリアする! みたいなやる気を引き出してくれる。まさに“雪育”的アクティビティなんです。
しかも、チョッカリ大魔神やニポなんていうキャラクターもいて。わたしは勝手にリアルロールプレイングゲームなんて呼んでます。
[星野]ちなみに、チョッカリ大魔神は悪党キャラクターなんですよ。チョッカリ(直滑降)をしたいから木を伐採しようとしている悪いやつ。でも、人気キャラで、チョッカリ大魔神が滑り出すと、子供たちがす~っと吸い込まれるように集まってくる。見ていておもしろいですよ。
アイテムもどんどんレベルアップしていって、じつは簡単にはクリアできない。悔しくて、また来てくれることを狙っています。そして、それが子供たちのモチベーションにつながればとも考えています。
どうやったらリタイヤしないか、これは業界の大きな課題なんですよ。そのために、スクールでもアクティビティでも、日々、試行錯誤しています。
[上村]スクールもアドベンチャーマウンテンも、細分化されたレベル設定があって上達が実感できたり、モチベーションの向上につながったり、とってもいい施策だと感じました。
わたしも子供の頃は、さすがにバックカントリーには入れませんでしたし、様々な制限がありました。でも、小さい頃から「レベルが上がると、いつかはこんなことができるんだよ」というスキー&スノーボードの幅広い魅力を見せてあげることって重要ですよね。
もう少し成長したら、もう少し上達したら、以前はできなかったことにも挑戦してみたくなるとも思います。その先を見せてあげれば、そんな自分を想像できるだろうし、モチベーションも上がるはずですよね。
細分化されたスクールも、アドベンチャーマウンテンの難しいアイテム設定も、目標が見えるのは、リタイヤさせないことに貢献しているんだろうと、容易に想像ができました。 -
スキー場は家族の絆を永遠のものへ
[竹川]星野さん、ご自身の幼少時代のご経験や、ひとりの父親として雪を通してお子さんの成長を実感した場面などについてお聞かせください。
[星野](スマホで父親とのスキー写真を見せていただきながら)この写真、小さい頃のわたしと父です。
[上村]星野さん、かわいい! このストック、竹ですよね?!
[星野]はい、3時間も滑っていると水を含んで重くなってきます。手袋もやたら重くなってきて(笑)
[竹川]記念館とかに展示してあるやつですよね!
[星野]この写真、誰に見せても場所がどこなのかわからないんです。菅平とか志賀高原だとは思いますが。ただ、このくらいの年齢からスキーをやっていたんだなというのは確かです。
しばらく軽井沢に住んでいたこともあり、冬のスポーツといえば、アイススケートがメインでした。ずっとスケートの選手だったので、スキーを真剣にやり始めたのは46~47歳ぐらいですね。
[竹川]かなり遅めですね?!
[星野]遅めというか、超遅いです(笑)2003~2004年にアルツ磐梯とトマムの再生のために様々な場所に視察に行くようになり、そこでスキーがおもしろいということに気づきまして。その時点である程度、滑ることができたのがよかったのだと思います。もちろん、子供にもスキーをさせましたが、わたしがあちこち連れて行きすぎてしまい嫌いになった派です(笑)
たとえ、スキーは嫌いになったとしても、家族で雪山に行く体験のいいところは、都会とはぜんぜん違うことが起きること。たとえば、雪が多くて歩きにくいとか、荷物が重くてたいへんとか、一家が団結する瞬間があります。それが旅のなかではおもしろい要素だと感じています。
ゲレンデに出たときもそうですが、みんなが苦難のなかにいるので、それを乗り越えるためにお互いに頼る瞬間がある。スキー旅がファミリーに与える最大の効果です。
[竹川]ハピスノではそんなストレスがないような施設、たとえば、ホテルに車を横付けできて荷物の積み下ろしが楽ちんなリゾートなどを積極的に紹介はしているんですが(笑)
[星野]それでも十分に苦難はあります。都会とはまったく違います。そういう意味ではインターネットすらつながらないほうがいいのかもしれないです。
「滞在中、子供がゲームよりもスキーに夢中になりました」と親御さんに喜んでいただくことも多々あります。いま、ホテルはWi-Fi設備が当たり前で、なんでも便利に過ごせるようになっています。これも違うのかもしれないと思うときがあります。せっかくなら山奥に来た感をちゃんと出すのは大切なのかもしれません。[竹川]ハピスノのイベントに参加してくれたり、モデルをやってくれたり、わたしに近しいファミリーがサンプルではありますが、小学生の間、継続的にスキー&スノボ旅に出かけている親子は、中学・高校になっても一緒にスキー場に行っているケースが多いんです。
じつは、わたしの長男は今年大学を卒業するんですが、いまだに年に1~2度は一緒に滑ります。しかも、スキーでなくても家族旅行についてきてくれるんです。まわりに聞くと「その歳でめずらしいよね」って。
雑なマーケティングですが、スキーやスノーボードをすると家族の絆は永遠に保たれるんじゃないか? ってことも訴えていきたいです。
[星野]共通の趣味ということかもしれないですね。上村さんのご両親は、スキー場でわざわざペンションを経営していたということはスキーが趣味だったんですか?
[上村]スポーツがすごく好きで、夏はテニス、冬はスキーを少し嗜むという家族でした。
[星野]それで白馬とか白樺湖なんですね。
[上村]そうです。うちの場合は目の前に雪があったので、家族旅行は逆で、ディズニーランドに行くとかでしたけど!
[星野]星野リゾートのスタッフに聞くと、スキーをする人はだいたい子供の頃に親にスキー場へ連れて行ってもらっています。わたしのアシスタントのご両親もスキーをするんですが、いまだに毎年、正月は家族で八甲田に大集合するらしいですよ。この間の年末も一緒に仕事したんですが、終わったら、ひとりで青森に向かって行きました。
[竹川]八甲田というところがコアですね(笑)
[星野]ちなみに、家族旅行を頻繁にしながら育った子供は、大人になってからも旅をし続けるという海外の研究結果があります。旅好きかどうかは、子供の頃の家族旅行の体験がすごく影響を与えている証左ですよね。
[竹川]スキー&スノーボード旅を題材としても、同じ結果となりそうな気はします。
[星野]研究結果はいまのところありませんが、もしかしたら、スキーにも同じような因果関係があるかもしれませんね(vol.2へ続く)。星野佳路さん
星野リゾート代表。1960年、長野 軽井沢町生まれ。所有と運営を一体とする日本の観光産業でいち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。毎年、1年任期のアシスタントとともに国内外のスキー場を巡り、年間滑走目標70日を目指している、自称、プロスキーヤー。上村愛子さん
1998年長野五輪から5大会連続で五輪出場。最高位はバンクーバー五輪とソチ五輪の4位。ハピスノ編集長が前職から主催している「家族対抗!雪上運動会」には2011年3月6日に初参戦。以来、毎年ハピスノのイベントや取材に参加している。竹川紀人
ファミリースキー関連メディアのディレクターをしてはや10余年。現在、「ハピスノ」編集長のほか、「tenki.jp」や「トラベルjp」のスキー場関連情報のディレクターも兼務。ファミリー対象の雪上イベントも多数主催。2児の父。
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