ハピスノ
ハピスノ編集長対談

[星野佳路さん×上村愛子さん×ハピスノ編集長]雪山は家族をひとつにしてくれる絶好のフィールド

ハピスノ編集部 2023.11.13
年間70日滑ることを目標に掲げるほど、雪山とスキーを愛してやまない星野リゾート代表 星野佳路さん。オリンピック5大会連続入賞など、モーグル選手として華々しく活躍され、現在も滑り続ける上村愛子さん。

今回は、このおふたりとハピスノ編集長の対談。雪山を通して、子供たちに伝えたいことやスキー業界の未来について、ざっくばらんに語り合いました(2023年1月取材)。
  • コロナ禍が子供から奪ったスキー体験の機会

    [ハピスノ編集長 竹川紀人(以下、竹川)]スキーやスノーボードは子供が小学生になったら、と考える親御さんはとても多いと感じています。その一方で、小学5~6年生になると、塾や習い事で両親よりも休みが取れない子供も多い。

    そう、じつはスキー&スノーボードを楽しむ年齢ってとても短くなっていて、大半の子供にとっては、あくまでボリュームという意味でいうと、たった4年間しかないんです。しかも、いまの小学生はそのうちの2~3年を、コロナ禍で失ってしまった。

    ハピスノではこれまでも、スキー場は幼児でも楽しめる場ということを訴求したくて“雪の遊園地”というキーワードで、幼稚園・保育園にフリーペーパーを配布するなど、スキー場の魅力拡散に努めてきました。

    ですが、今後はスキー&スノーボードの魅力を、コロナ禍でチャンスを奪われた小学生以上の子供やそのご両親に対しても、積極的に発信していく必要が強まったと感じているところです。

    そんななか、今回の対談では、子供や家族にとってのスキー&スノーボードの魅力について、おふたりのお考えをお話いただければと考えています。

    [竹川]まずは愛子さん、ご自身が子供の頃にスキーを始めたきっかけを教えてください。

    [上村愛子さん(以下、上村)]もともと生まれは兵庫県でしたが、わたしが3歳の頃に両親が白樺湖(長野県)近くのエコーバレースキー場の麓でペンションを開くことになりました。小学1年生のとき白馬(長野県)に越して、そこでもペンション業を営んでいましたが、冬になると目の前が一面の雪。

    物心ついたときには、短いスキー板を履いて遊んでました。まわりにペンションのスタッフやゲストのお兄さん・お姉さんがたくさんいて、自然とゲレンデに連れていってもらうようになり、気づいたらスキーをしている人生でした。

    [星野佳路さん(以下、星野)]競技スキーを始めたのはいつ頃ですか?

    [上村]小学1年生のときにアルペン競技を始めました。

    [星野]スキー&スノーボードって、どこかでリタイヤする子が多いですよね。とくに、小学校の高学年から中学生にかけてリタイヤする子が多い。上村さんは、なにが続けるモチベーションになっていたんですか? やめたいと思ったことはなかったんですか?

    [上村]小学校の頃のスキー練習って、日中は学校なので、毎日ナイターでした。最悪なんです、寒くて(笑)足は冷たいし、手も凍る。トイレにもなかなか行けないし。わたしのまわりでは、それがやめたいと思ってしまう理由になる子も多かったみたいです。

    どうしてわたしは続けられたかというと、たぶん、自分にとっては学校のあとにまっすぐ帰って宿題をするよりも、スキースクールに寄って、スキーを履いて遊ぶほうが楽しいという感覚があったからだと思います。

    [星野]じつは1回ちょっとやめた、みたいなこともなかったんですか?

    [上村]ないですね。小学校の6年間、アルペン競技をやって、中学2年生にはモーグルに転向するんですが、その合間の中学1年生のときに一度だけ、競技からは離れました。

    でも、その間も「自分には目標があったほうがいい」と気づいて、検定を受けたりしていました。検定に合格したり、タイムが上がったり。一生懸命やったら結果が付いてくるという喜びがモチベーションになっていたのかもしれません。

    [星野]なるほど…。どうやって子供に始めてもらうかも大切だけど、どうしたらやめないで続けてもらえるかも重要。そんなふうに考えているんですけど、やめようと思ったことがない人にはなかなか分からないことかもしれません(笑)冷たくて辛いのに通っちゃうというモチベーションこそが“素質”なのかもしれませんね。

  • 子供がスキーをやめない仕掛けづくり

    [竹川]どうしたらリタイヤしないか? わたしの経験則だと、リタイヤしない子たちの傾向はスキーでもスノーボードでも、忙しくなる小学校の高学年までにある程度、滑れるようになっているんです。

    つまり、スキー&スノーボードの魅力を実感できている子たちはやめない。と考えると、スクールがとても重要になってくるんですよね。パパ・ママがしっかり教えられればいいですけど、塾と一緒で、スキーもやっぱりスクールにまかせたほうがいい。親は感情的になりがちだから(笑)

    でも、そのスクールも慢性的な人材不足。そして、もともと数の少ないインストラクターのなかに、子供を教えることに長けた人材も少ないのが現状。

    そんななかで、星野リゾートの「雪ッズ70」には注目しているんです。

    [星野]ありがとうございます!「雪ッズ70」とは星野リゾートが運営するリゾナーレ八ヶ岳とネコマ マウンテン(旧アルツ磐梯)、そして、トマムで展開しているキッズスキースクールです。

    6つのレベルと、さらに細分化された70個のステップが特徴ですが、じつはこのスクール、水泳教室からヒントを得ているんです。

    水泳教室ではレベルアップするたびにワッペンとか賞品的なものがもらえますよね。それが子供たちのモチベーションになっている。雪ッズ70でも同様に「雪ッズ70 ピンバッチ」を差し上げています。

    [上村]モチベーションを高める施策、素敵ですね! 70ステップというのもすごいと思います。

    [星野]例えば、レベルが6つしかないと上達を実感しづらいですけど、70ステップあれば、受講するたびにステップアップできるだろうし、上達が一目瞭然。それがモチベーションにつながるんじゃないかって考えたんです。

    また、展開している3施設ではデータを共有化してカルテを作り、どこでも引き継げるようにしました。リゾナーレ八ヶ岳でもネコマ マウンテンでも、トマムでも、無駄なく次のステップ習得のためにレッスンを始められるというのは大きなメリットだと考えています。

    少しずつ自信をつけてもらい、毎年モチベーションを維持して、レベル6の受講が唯一できるトマムで、最後はチョッカリ大魔神(トマムの人気キャラクター)と一緒に滑ってくれたらうれしいですね。

    [竹川]チョッカリ大魔神の名前が出てきましたが、トマムのコンテンツで、わたしのいちばんのお気に入りは「アドベンチャーマウンテン」なんです。

    [星野]ありがとうございます。

    [竹川]愛子さん、アドベンチャーマウンテンって、ゲレンデに様々なアイテムがあって、それがレベル別に分かれていて、ひとつひとつ、アイテムをクリアするとスタンプが押せるんです。

    雪ッズ70同様、それがモチベーションにつながるみたいで、次はあのアイテムをクリアする! みたいなやる気を引き出してくれる。まさに“雪育”的アクティビティなんです。

    しかも、チョッカリ大魔神やニポなんていうキャラクターもいて。わたしは勝手にリアルロールプレイングゲームなんて呼んでます。

    [星野]ちなみに、チョッカリ大魔神は悪党キャラクターなんですよ。チョッカリ(直滑降)をしたいから木を伐採しようとしている悪いやつ。でも、人気キャラで、チョッカリ大魔神が滑り出すと、子供たちがす~っと吸い込まれるように集まってくる。見ていておもしろいですよ。

    アイテムもどんどんレベルアップしていって、じつは簡単にはクリアできない。悔しくて、また来てくれることを狙っています。そして、それが子供たちのモチベーションにつながればとも考えています。

    どうやったらリタイヤしないか、これは業界の大きな課題なんですよ。そのために、スクールでもアクティビティでも、日々、試行錯誤しています。

    [上村]スクールもアドベンチャーマウンテンも、細分化されたレベル設定があって上達が実感できたり、モチベーションの向上につながったり、とってもいい施策だと感じました。

    わたしも子供の頃は、さすがにバックカントリーには入れませんでしたし、様々な制限がありました。でも、小さい頃から「レベルが上がると、いつかはこんなことができるんだよ」というスキー&スノーボードの幅広い魅力を見せてあげることって重要ですよね。

    もう少し成長したら、もう少し上達したら、以前はできなかったことにも挑戦してみたくなるとも思います。その先を見せてあげれば、そんな自分を想像できるだろうし、モチベーションも上がるはずですよね。

    細分化されたスクールも、アドベンチャーマウンテンの難しいアイテム設定も、目標が見えるのは、リタイヤさせないことに貢献しているんだろうと、容易に想像ができました。

  • スキー場は家族の絆を永遠のものへ

    [竹川]星野さん、ご自身の幼少時代のご経験や、ひとりの父親として雪を通してお子さんの成長を実感した場面などについてお聞かせください。

    [星野](スマホで父親とのスキー写真を見せていただきながら)この写真、小さい頃のわたしと父です。

    [上村]星野さん、かわいい! このストック、竹ですよね?!

    [星野]はい、3時間も滑っていると水を含んで重くなってきます。手袋もやたら重くなってきて(笑)

    [竹川]記念館とかに展示してあるやつですよね!

    [星野]この写真、誰に見せても場所がどこなのかわからないんです。菅平とか志賀高原だとは思いますが。ただ、このくらいの年齢からスキーをやっていたんだなというのは確かです。

    しばらく軽井沢に住んでいたこともあり、冬のスポーツといえば、アイススケートがメインでした。ずっとスケートの選手だったので、スキーを真剣にやり始めたのは46~47歳ぐらいですね。

    [竹川]かなり遅めですね?!

    [星野]遅めというか、超遅いです(笑)2003~2004年にアルツ磐梯とトマムの再生のために様々な場所に視察に行くようになり、そこでスキーがおもしろいということに気づきまして。その時点である程度、滑ることができたのがよかったのだと思います。もちろん、子供にもスキーをさせましたが、わたしがあちこち連れて行きすぎてしまい嫌いになった派です(笑)

    たとえ、スキーは嫌いになったとしても、家族で雪山に行く体験のいいところは、都会とはぜんぜん違うことが起きること。たとえば、雪が多くて歩きにくいとか、荷物が重くてたいへんとか、一家が団結する瞬間があります。それが旅のなかではおもしろい要素だと感じています。

    ゲレンデに出たときもそうですが、みんなが苦難のなかにいるので、それを乗り越えるためにお互いに頼る瞬間がある。スキー旅がファミリーに与える最大の効果です。

    [竹川]ハピスノではそんなストレスがないような施設、たとえば、ホテルに車を横付けできて荷物の積み下ろしが楽ちんなリゾートなどを積極的に紹介はしているんですが(笑)

    [星野]それでも十分に苦難はあります。都会とはまったく違います。そういう意味ではインターネットすらつながらないほうがいいのかもしれないです。

    「滞在中、子供がゲームよりもスキーに夢中になりました」と親御さんに喜んでいただくことも多々あります。いま、ホテルはWi-Fi設備が当たり前で、なんでも便利に過ごせるようになっています。これも違うのかもしれないと思うときがあります。せっかくなら山奥に来た感をちゃんと出すのは大切なのかもしれません。

    [竹川]ハピスノのイベントに参加してくれたり、モデルをやってくれたり、わたしに近しいファミリーがサンプルではありますが、小学生の間、継続的にスキー&スノボ旅に出かけている親子は、中学・高校になっても一緒にスキー場に行っているケースが多いんです。

    じつは、わたしの長男は今年大学を卒業するんですが、いまだに年に1~2度は一緒に滑ります。しかも、スキーでなくても家族旅行についてきてくれるんです。まわりに聞くと「その歳でめずらしいよね」って。

    雑なマーケティングですが、スキーやスノーボードをすると家族の絆は永遠に保たれるんじゃないか? ってことも訴えていきたいです。

    [星野]共通の趣味ということかもしれないですね。上村さんのご両親は、スキー場でわざわざペンションを経営していたということはスキーが趣味だったんですか?

    [上村]スポーツがすごく好きで、夏はテニス、冬はスキーを少し嗜むという家族でした。

    [星野]それで白馬とか白樺湖なんですね。

    [上村]そうです。うちの場合は目の前に雪があったので、家族旅行は逆で、ディズニーランドに行くとかでしたけど!

    [星野]星野リゾートのスタッフに聞くと、スキーをする人はだいたい子供の頃に親にスキー場へ連れて行ってもらっています。わたしのアシスタントのご両親もスキーをするんですが、いまだに毎年、正月は家族で八甲田に大集合するらしいですよ。この間の年末も一緒に仕事したんですが、終わったら、ひとりで青森に向かって行きました。

    [竹川]八甲田というところがコアですね(笑)

    [星野]ちなみに、家族旅行を頻繁にしながら育った子供は、大人になってからも旅をし続けるという海外の研究結果があります。旅好きかどうかは、子供の頃の家族旅行の体験がすごく影響を与えている証左ですよね。

    [竹川]スキー&スノーボード旅を題材としても、同じ結果となりそうな気はします。

    [星野]研究結果はいまのところありませんが、もしかしたら、スキーにも同じような因果関係があるかもしれませんね。

  • 3~5歳の子供がいる家族が大切なマーケット

    [竹川]愛子さんは、甥っ子・姪っ子とスキーを楽しんでいるとお伺いしたことがありますが、一緒に滑る子供たちはどんな様子ですか?

    [上村]うちは年に一度、お正月に集まって賑やかにやっていますが、最初は2人がスキーを好きになってくれるかどうかちょっと怪しかったんです。いきなり上手に滑れるわけじゃないし、転んで冷たいとか痛いとか言っているし。

    それでも毎年「愛子、今回も一緒に滑れるの?」って言ってくれます。いま、上のお姉ちゃんが中学2年生で下の弟が小学5年生ですが、今年もみんなで一緒に滑りました。年に1回でも雪山で遊んだり、スキーしてくれているので、このまま2人は好きでい続けてくれるんじゃないかなと思っています。

    [竹川]下の子が中学生になったときに続けてくれるかどうかですね。一般的な家庭の場合、そこが大きな切り替わりポイントなので。

    [上村]性格がおもしろい子たちで、ものすごく私に懐いてくれているから、たぶん大丈夫かなって。「愛子いるの?」っていつも言ってくれる。なぜか、2人揃って「愛子」と呼び捨てです(笑)

    [星野]ところで、スキーって何歳から始められるスポーツだと思いますか? わたしたちもよく聞かれるのですが。

    [上村]3歳くらいでしょうか?

    [竹川]スクールは早いところだと3歳からですね。スノーボードはもう少し遅くて、小学校からが主流。3歳とか5歳というスクールもありますが、雪遊び要素が強いみたいです。

    [星野]いずれも小学校に上がる前ですね。リゾート業界でその年齢は大事なマーケットです。なぜかというと、平日も旅行に来てくれるから。冬の平日に宿泊してくれるファミリーは、だいたい3~5歳の子供がいるご家庭です。

    リゾナーレが成功しているポイントは、そこを集中的にターゲットにしたからです。リゾート業界としては小学校に入る前に始められるスポーツは相性がいいですね。ゴルフではそうはいかないかもしれません。

    [竹川]愛子さんは2022年11月に絵本「ゆきゆきだいすき」を出版されましたが、甥っ子さんと姪っ子さんは読まれましたか? なにかレスポンスありました?

    [上村]家族で1冊買ってくれたみたいです。雪の絵本で明るい雰囲気だったり、環境問題を扱っていたりするものがこれまでなかったらしくて、こういう本があったらいいなと思っていたんだ、ありがとう! とお父さん・お母さんからは言われました。子供たちはすごく楽しそうに読んでくれてますね。声を出して読みたくなる絵本みたいです。

    [竹川]柔らかいタッチなんだけど、伝えたいことがしっかりわかるので、すごくいいなと感じました。

    [上村]絵を描いているときに、キャラクターの女の子の表情にはとても気を使いました。眉毛の角度ひとつで困った顔になってしまったり…。とにかく楽しそうに、雪に埋もれている場面でもお風呂に入って温かいときの顔のように描いたりとか(笑)

    子供たちには目に飛び込んでくるものの楽しさが結構伝わるし、想像力もすごくあると思うので、前半は、雪は楽しもうと思ったら楽しめるものなんだよっていうのを一生懸命描きました。後半は、ちょっと環境問題に触れています。

    雪を楽しみにしてくれる子が増えたらいいなという想いでつくった雪の扉みたいな絵本です。幼稚園などに置いてもらえるように、これからも活動していこうと思っています。

    [星野]リゾナーレの各施設にはBooks&Cafeがありますので、そこにもぜひ置かせてください。

    [上村]ありがとうございます。ぜひ、よろしくお願いします。

    【ゆきゆきだいすき】
    ■絵/上村愛子 作/八尾良太郎
    ■料金:1,650円

    ゆきゆきだいすき_詳細情報
  • スキー修旅の復活。その方向性も見直したい

    [竹川]もうひとつ、わたしが懸念しているのはスキー学校の減少です。先ほどお話したように、一部の小学生はスキー&スノーボードをする機会をコロナ禍によって奪われてしまった可能性があります。

    となると、とくに首都圏の子にとって、次の機会は中学や高校のスキー学校、スキー修旅(修学旅行)なんです。ハピスノとしては、スキー修旅が多くの中学・高校で復活するように、スキー&スノーボードの教育的な魅力も発信していきたいと考えているんです。

    [星野]上村さん、修学旅行は文科省のルールで決まっていて、学校は実施しなくてはいけないのです。でも、どこに行って何をするかは、ある程度、教育委員会や学校に一任されています。内容までなかなか手が回らないのか、せっかくスキー場に来てくれても、残念ながらスキー修旅のせいで、スキー嫌いになる子も多くいます。

    [上村]何か負のループでもあるのでしょうか?

    [星野]修学旅行でスキーに行くことが多かった時代はよかった、と業界の人たちは言いますが、多かった時代は逆に嫌いになる人を増やしていた可能性もあります。

    逆に言うと、スキー修旅で楽しい体験をしてもらえば、スキー人口が増える可能性もある。どうしたら修旅のスキーを楽しくできるかというのは、業界にとって、とても大きなテーマです。

    [上村]修学旅行でスキーに、何十人ものお友達と一緒に来られるのって、すごく楽しい気がします。それがマイナスになることもあるなんて…。仲のいい子とは違うレベルのクラスに入れられちゃうとかあるんでしょうか?

    [星野]スキー場って、コンディションがいい日と悪い日がありますよね。吹雪いていて、すごく寒い! というような。たまたま、そういう日に当たってしまっても修学旅行だと無理やり滑らされるんです。あれはやめたほうがいいのでは、と思ってしまいます。

    天気が悪いときは、他のアクティビティを用意すればいい。先日、旭岳にオーストラリアの4ファミリーを連れて行きましたが、天気のいい日は旭岳、悪い日は旭山動物園、と天気予報次第のスケジュールにしたら大ヒットしました。修学旅行もそのくらいの改善をしないとよくありません。

    [竹川]いまは家庭の事情もあり、修学旅行を強要できないと聞いたことがあります。だから、たとえば、九州の学校だと初日はスキー、最終日はディズニーリゾートみたいに、子供たちが参加したいと思わせる中身にしている。

    九州からだと、家族旅行でディズニーリゾートはなかなか行けないので参加する子も増える。そんなふうに参加させる努力はしているけど、スキー自体を楽しませる努力が足りないのかもしれませんね。

    [星野]大量の初心者が来ても、スキーを嫌いにさせない方法を考えなければいけないですね。スキーを無理やり履かせる必要はないのかもしれません。雪で遊んで帰るとか。そりやスノーシューとか。それだけでもだいぶイメージが変わるかもしれない。雪山って楽しいんだなと思わせる努力が必要です。

    [上村]竹川さんが「家族対抗!雪上運動会」をやっている理由って、そもそも、そこでしたよね!

    [竹川]はい! スキー&スノーボードをしなくても、雪遊びなら家族みんなで楽しめる。家族みんなで運動会に出場すれば、絆も深まる…みたいな。

    [上村]雪への入口を作れたらいいですよね!

    [星野]いっそ、雪合戦やそり遊びがメインで、天気のいい日があれば、スキーやスノーボードをやりたい子だけ滑るとか。

    [上村]それ、いいですね、選択制になってるのっていいと思います。

    [竹川]友達がスキーやスノーボードをしていたら、絶対、滑りたくもなりますしね。

  • 雪山を“ファミリーギャザリング”の場へ!

    [星野]海外のリゾートをたくさん見てきましたが、スキー場に泊まっている人の半分はスキーやスノーボードをしない人です。日本との決定的な違いです。

    [竹川]する日としない日があるんじゃなくて、まったくしない人ですか?

    [星野]そう、まったくしない人です。

    [上村]雪のある場所を楽しむんですよね。街を歩いたり、食事をしたり…。

    [星野]あとは“ファミリーギャザリング”のために来ているんです。つまり、分散して住んでいる家族が、冬になると子供の頃から行っていたスキー場に集まる。家族のなかにはスキーをしなくなった人もいるし、続けている人もいるけど、それに関係なく、みんな集まってくる。

    意外にも年配の人たちのほうが滑っていたりします。日本と海外の大きな差って、そこなんです。続ける人が海外は多い。60~80代のスキーヤーが海外にはいますが、日本は少ない。だから、いかに生涯スポーツとして位置付けられるかもポイントです。

    海外の人たちは年齢層が高い分、ひとりが支払う単価も高くなります。スキーをしている家族を見ても、2本くらい滑ったら山の中にあるレストランでワイン飲み始めたりしています。2時頃までだらだらして、もう、それであがってしまう。滑ってないじゃないかって思っちゃう(笑)

    美しい景色を見て、写真を撮って、おいしいものをいっぱい食べて、という経験を楽しんでいる。だから、山の中のゲレンデにいいレストランが作れます。そこに、しっかり単価を取れるだけのマーケットが存在しているからです。

    [竹川]トマムはそれに近いんじゃないですか?

    [星野]そこを目指してがんばっているんですが、スキーの文化の差はあるかもしれません。日本はスキーの歴史が100年以上と長いですが、文化面では海外に追いつかないといけません。

    小さな子供にスキーをして欲しいのと同時に、80歳まで続けてもらうことが大切です。そうすると、ファミリーギャザリングの場所として雪山が選ばれるようになり、先ほどのように半分の滑らない人たち用の楽しみも用意しなければいけないというふうに発展していくと思います。

    日本の雪山は、続けない人も来れる場所になっていかないといけません。そうすれば、孫も集まって賑やかな場所になっていくと思います。

    [竹川]ファミリーギャザリング、いいですね! 自分の未来も想像できました(笑)子供たち、孫を連れて来てくれるかなぁ?

    [星野]“ファミリーギャザリングとしての雪山”をぜひハピスノのテーマにしてください。

    [上村]うち、姪っ子も甥っ子も滑れるようになってきたので、72歳の母親が最近、また復活してスキーを始めたんです。

    [星野][竹川]すごい!

    [上村]孫の世代がやり始めると、やったことがある人なら、おじいちゃん・おばあちゃんでもやり始めるんだなって実感しました。うちがそうなので。

    [星野]子供が結婚して、孫が生まれたってときに年末年始、家にいてはダメですよ。雪山に引っ越していただいて、そこに集まるのを習慣にしていかないと(笑)

    アメリカではだいたいクリスマスがそうなっています。クリスマスのスキー場はとても混んでいます。コロラドはアメリカの中心部にありますが、人気の理由は集まりやすいからです。東海岸からでも西海岸からでも、アメリカ全土に住んでいる家族が集まるには最適な場所です。

    [竹川]ファミリーギャザリング!というコンセプト、真剣に考えていきたいです。3世代に注目はしていましたが、それをどういう切り口で伝えればいいのか自分のなかに答えがなかったんです。

    でも、いま自分が本当に孫と一緒に集まりたいなって思うから腑に落ちました。でも、孫、生まれるかなぁ~(笑)

    [星野]おじいちゃんは山に行かないと会えないくらいの勢いで。引っ越したはいいけど、誰も来なかったりしてね(笑)

    [上村]来てくれるように、子供とも孫とも仲良くしていってくださいね(笑)

    【プロフィール】
    ■星野佳路さん
    星野リゾート代表。1960年、長野 軽井沢町生まれ。所有と運営を一体とする日本の観光産業でいち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。毎年、1年任期のアシスタントとともに国内外のスキー場を巡り、年間滑走目標70日を目指している、自称、プロスキーヤー。

    ■上村愛子さん
    1998年長野五輪から5大会連続で五輪出場。最高位はバンクーバー五輪とソチ五輪の4位。ハピスノ編集長が前職から主催している「家族対抗!雪上運動会」には2011年3月6日に初参戦。以来、毎年ハピスノのイベントや取材に参加している。

    ■竹川紀人
    ファミリースキー関連メディアのディレクターをしてはや10余年。現在、「ハピスノ」編集長のほか、「tenki.jp」や「トラベルjp」のスキー場関連情報のディレクターも兼務。ファミリー対象の雪上イベントも多数主催。2児の父。

ハピスノ編集部
ファミリーを対象にしたスノーリゾート取材本数“自称”日本一の編集部。取材のモットーは、実際に子供を連れて、そのスキー場を余すことなく体験すること。そうして見えてくることを紹介したい! この冬も「ハピスノ応援団」の団員とともに、全国各地のゲレンデに出没する予定。