ハピスノ
ハピスノ編集長対談

[星野佳路さん×上村愛子さん×ハピスノ編集長]雪山は家族をひとつにしてくれる絶好のフィールド vol.2

ハピスノ編集部 2023.02.21
年間70日滑ることを目標に掲げるほど、雪山とスキーを愛してやまない星野リゾート代表 星野佳路さん。オリンピック5大会連続入賞など、モーグル選手として華々しく活躍され、現在も滑り続ける上村愛子さん。

今回は、このおふたりとハピスノ編集長の対談。雪山を通して、子供たちに伝えたいことやスキー業界の未来について、ざっくばらんに語り合いました。
  • 3~5歳の子供がいる家族が大切なマーケット

    [ハピスノ編集長 竹川紀人(以下、竹川)]愛子さんは、甥っ子・姪っ子とスキーを楽しんでいるとお伺いしたことがありますが、一緒に滑る子供たちはどんな様子ですか?

    [上村愛子さん(以下、上村)]うちは年に一度、お正月に集まって賑やかにやっていますが、最初は2人がスキーを好きになってくれるかどうかちょっと怪しかったんです。いきなり上手に滑れるわけじゃないし、転んで冷たいとか痛いとか言っているし。

    それでも毎年「愛子、今回も一緒に滑れるの?」って言ってくれます。いま、上のお姉ちゃんが中学2年生で下の弟が小学5年生ですが、今年もみんなで一緒に滑りました。年に1回でも雪山で遊んだり、スキーしてくれているので、このまま2人は好きでい続けてくれるんじゃないかなと思っています。

    [竹川]下の子が中学生になったときに続けてくれるかどうかですね。一般的な家庭の場合、そこが大きな切り替わりポイントなので。

    [上村]性格がおもしろい子たちで、ものすごく私に懐いてくれているから、たぶん大丈夫かなって。「愛子いるの?」っていつも言ってくれる。なぜか、2人そろって「愛子」と呼び捨てです(笑)

    [星野佳路さん(以下、星野)]ところで、スキーって何歳から始められるスポーツだと思いますか? わたしたちもよく聞かれるのですが。

    [上村]3歳くらいでしょうか?

    [竹川]スクールは早いところだと3歳からですね。スノーボードはもう少し遅くて、小学校からが主流。3歳とか5歳というスクールもありますが、雪遊び要素が強いみたいです。

    [星野]いずれも小学校に上がる前ですね。リゾート業界でその年齢は大事なマーケットです。なぜかというと、平日も旅行に来てくれるから。冬の平日に宿泊してくれるファミリーは、だいたい3~5歳の子供がいるご家庭です。

    リゾナーレが成功しているポイントは、そこを集中的にターゲットにしたからです。リゾート業界としては小学校に入る前に始められるスポーツは相性がいいですね。ゴルフではそうはいかないかもしれません。

    [竹川]愛子さんは昨年11月に絵本「ゆきゆきだいすき」を出版されましたが、甥っ子さんと姪っ子さんは読まれましたか? なにかレスポンスありました?

    [上村]家族で1冊買ってくれたみたいです。雪の絵本で明るい雰囲気だったり、環境問題を扱っていたりするものがこれまでなかったらしくて、こういう本があったらいいなと思っていたんだ、ありがとう! とお父さん・お母さんからは言われました。子供たちはすごく楽しそうに読んでくれてますね。声を出して読みたくなる絵本みたいです。

    [竹川]柔らかいタッチなんだけど、伝えたいことがしっかりわかるので、すごくいいなと感じました。

    [上村]絵を描いているときに、キャラクターの女の子の表情にはとても気を使いました。眉毛の角度ひとつで困った顔になってしまったり…。とにかく楽しそうに、雪に埋もれている場面でもお風呂に入って温かいときの顔のように描いたりとか(笑)

    子供たちには目に飛び込んでくるものの楽しさが結構伝わるし、想像力もすごくあると思うので、前半は、雪は楽しもうと思ったら楽しめるものなんだよっていうのを一生懸命描きました。後半は、ちょっと環境問題に触れています。

    雪を楽しみにしてくれる子が増えたらいいなという想いでつくった雪の扉みたいな絵本です。幼稚園などに置いてもらえるように、これからも活動していこうと思っています。

    [星野]リゾナーレの各施設にはBooks & Cafeがありますので、そこにもぜひ置かせてください。

    [上村]ありがとうございます。ぜひ、よろしくお願いします。

    【ゆきゆきだいすき】
    ■絵/上村愛子 昨/八尾良太郎
    ■料金:1,650円

    ゆきゆきだいすき_詳細情報
  • スキー修旅の復活。その方向性も見直したい

    [竹川]もうひとつ、わたしが懸念しているのはスキー学校の減少です。先ほどお話したように、一部の小学生はスキー&スノーボードをする機会をコロナ禍によって奪われてしまった可能性があります(対談vol.1参照)。

    となると、とくに首都圏の子にとって、次の機会は中学や高校のスキー学校、スキー修旅(修学旅行)なんです。ハピスノとしては、スキー修旅が多くの中学・高校で復活するように、スキー&スノーボードの教育的な魅力も発信していきたいと考えているんです。

    [星野]上村さん、修学旅行は文科省のルールで決まっていて、学校は実施しなくてはいけないのです。でも、どこに行って何をするかは、ある程度、教育委員会や学校に一任されています。内容までなかなか手が回らないのか、せっかくスキー場に来てくれても、残念ながらスキー修旅のせいで、スキー嫌いになる子も多くいます。

    [上村]何か負のループでもあるのでしょうか?

    [星野]修学旅行でスキーに行くことが多かった時代はよかった、と業界の人たちは言いますが、多かった時代は逆に嫌いになる人を増やしていた可能性もあります。

    逆に言うと、スキー修旅で楽しい体験をしてもらえば、スキー人口が増える可能性もある。どうしたら修旅のスキーを楽しくできるかというのは、業界にとって、とても大きなテーマです。

    [上村]修学旅行でスキーに、何十人ものお友達と一緒に来られるのって、すごく楽しい気がします。それがマイナスになることもあるなんて…。仲のいい子とは違うレベルのクラスに入れられちゃうとかあるんでしょうか?

    [星野]スキー場って、コンディションがいい日と悪い日がありますよね。吹雪いていて、すごく寒い! というような。たまたま、そういう日に当たってしまっても修学旅行だと無理やり滑らされるんです。あれはやめたほうがいいのでは、と思ってしまいます。

    天気が悪いときは、他のアクティビティを用意すればいい。先日、旭岳にオーストラリアの4ファミリーを連れて行きましたが、天気のいい日は旭岳、悪い日は旭山動物園、と天気予報次第のスケジュールにしたら大ヒットしました。修学旅行もそのくらいの改善をしないとよくありません。

    [竹川]いまは家庭の事情もあり、修学旅行を強要できないと聞いたことがあります。だから、たとえば、九州の学校だと初日はスキー、最終日はディズニーリゾートみたいに、子供たちが参加したいと思わせる中身にしている。

    九州からだと、家族旅行でディズニーリゾートはなかなか行けないので参加する子も増える。そんなふうに参加させる努力はしているけど、スキー自体を楽しませる努力が足りないのかもしれませんね。

    [星野]大量の初心者が来ても、スキーを嫌いにさせない方法を考えなければいけないですね。スキーを無理やり履かせる必要はないのかもしれません。雪で遊んで帰るとか。そりやスノーシューとか。それだけでもだいぶイメージが変わるかもしれない。雪山って楽しいんだなと思わせる努力が必要です。

    [上村]竹川さんが「家族対抗!雪上運動会」をやっている理由って、そもそも、そこでしたよね!

    [竹川]はい! スキー&スノーボードをしなくても、雪遊びなら家族みんなで楽しめる。家族みんなで運動会に出場すれば、絆も深まる…みたいな。

    [上村]雪への入り口を作れたらいいですよね!

    [星野]いっそ、雪合戦やそり遊びがメインで、天気のいい日があれば、スキーやスノーボードをやりたい子だけ滑るとか。

    [上村]それ、いいですね、選択制になってるのっていいと思います。

    [竹川]友達がスキーやスノーボードをしていたら、絶対、滑りたくもなりますしね。

  • 雪山を“ファミリーギャザリング”の場へ!

    [星野]海外のリゾートをたくさん見てきましたが、スキー場に泊まっている人の半分はスキーやスノーボードをしない人です。日本との決定的な違いです。

    [竹川]する日としない日があるんじゃなくて、まったくしない人ですか?

    [星野]そう、まったくしない人です。

    [上村]雪のある場所を楽しむんですよね。街を歩いたり、食事をしたり…。

    [星野]あとは“ファミリーギャザリング”のために来ているんです。つまり、分散して住んでいる家族が、冬になると子供の頃から行っていたスキー場に集まる。家族のなかにはスキーをしなくなった人もいるし、続けている人もいるけど、それに関係なく、みんな集まってくる。

    意外にも年配の人たちのほうが滑っていたりします。日本と海外の大きな差って、そこなんです。続ける人が海外は多い。60~80代のスキーヤーが海外にはいますが、日本は少ない。だから、いかに生涯スポーツとして位置付けられるかもポイントです。

    海外の人たちは年齢層が高い分、ひとりが支払う単価も高くなります。スキーをしている家族を見ても、2本くらい滑ったら山の中にあるレストランでワイン飲み始めたりしています。2時頃までだらだらして、もう、それであがってしまう。滑ってないじゃないかって思っちゃう(笑)

    美しい景色を見て、写真を撮って、おいしいものをいっぱい食べて、という経験を楽しんでいる。だから、山の中のゲレンデにいいレストランが作れます。そこに、しっかり単価を取れるだけのマーケットが存在しているからです。

    [竹川]トマムはそれに近いんじゃないですか?

    [星野]そこを目指してがんばっているんですが、スキーの文化の差はあるかもしれません。日本はスキーの歴史が100年以上と長いですが、文化面では海外に追いつかないといけません。

    小さな子供にスキーをして欲しいのと同時に、80歳まで続けてもらうことが大切です。そうすると、ファミリーギャザリングの場所として雪山が選ばれるようになり、先ほどのように半分の滑らない人たち用の楽しみも用意しなければいけないというふうに発展していくと思います。

    日本の雪山は、続けない人も来れる場所になっていかないといけません。そうすれば、孫も集まって賑やかな場所になっていくと思います。

    [竹川]ファミリーギャザリング、いいですね! 自分の未来も想像できました(笑)子供たち、孫を連れて来てくれるかなぁ?

    [星野]“ファミリーギャザリングとしての雪山”をぜひハピスノのテーマにしてください。

    [上村]うち、姪っ子も甥っ子も滑れるようになってきたので、72歳の母親が最近、また復活してスキーを始めたんです。

    [星野][竹川]すごい!

    [上村]孫の世代がやり始めると、やったことがある人なら、おじいちゃん・おばあちゃんでもやり始めるんだなって実感しました。うちがそうなので。

    [星野]子供が結婚して、孫が生まれたってときに年末年始、家にいてはダメですよ。雪山に引っ越していただいて、そこに集まるのを習慣にしていかないと(笑)

    アメリカではだいたいクリスマスがそうなっています。クリスマスのスキー場はとても混んでいます。コロラドはアメリカの中心部にありますが、人気の理由は集まりやすいからです。東海岸からでも西海岸からでも、アメリカ全土に住んでいる家族が集まるには最適な場所です。

    [竹川]ファミリーギャザリング!というコンセプト、真剣に考えていきたいです。3世代に注目はしていましたが、それをどういう切り口で伝えればいいのか自分のなかに答えがなかったんです。

    でも、いま自分が本当に孫と一緒に集まりたいなって思うから腑に落ちました。でも、孫、生まれるかなぁ~(笑)

    [星野]おじいちゃんは山に行かないと会えないくらいの勢いで。引っ越したはいいけど、誰も来なかったりしてね(笑)

    [上村]来てくれるように、子供とも孫とも仲良くしていってくださいね(笑)

    ================
    星野佳路さん
    星野リゾート代表。1960年、長野 軽井沢町生まれ。所有と運営を一体とする日本の観光産業でいち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。毎年、1年任期のアシスタントとともに国内外のスキー場を巡り、年間滑走目標70日を目指している、自称、プロスキーヤー。

    上村愛子さん
    1998年長野五輪から5大会連続で五輪出場。最高位はバンクーバー五輪とソチ五輪の4位。ハピスノ編集長が前職から主催している「家族対抗!雪上運動会」には2011年3月6日に初参戦。以来、毎年ハピスノのイベントや取材に参加している。

    竹川紀人
    ファミリースキー関連メディアのディレクターをしてはや10余年。現在、「ハピスノ」編集長のほか、「tenki.jp」や「トラベルjp」のスキー場関連情報のディレクターも兼務。ファミリー対象の雪上イベントも多数主催。2児の父。

ハピスノ編集部
ファミリーを対象にしたスノーリゾート取材本数“自称”日本一の編集部。取材のモットーは、実際に子供を連れて、そのスキー場を余すことなく体験すること。そうして見えてくることを紹介したい! この冬も「ハピスノ応援団」の団員とともに、全国各地のゲレンデに出没する予定。